FAOとCIFORは2005年にレポート「森林と洪水:作り話に溺れるか、真実に立つか?」を出版し、森林減少が大洪水を引き起こすというよく言われている話は科学的な観測事実とは異なることを示しました。これで決着が付くどころか、今になって議論は蒸し返されています。
最近Global Change Biology誌に発表され、Nature誌のエッセイにも取り上げられたある研究によれば、洪水の危険性は天然林の消失とやはり相関があることを示しています。Corey Bradshawたちは国レベルの森林被覆と洪水発生のデータを、発展途上国56カ国について1990年から2000年まで組み合わせ、関係がありそうな因子をいろいろ用いたモデルで解析しました。その結果、国ごとの洪水頻度の変動のうち65%がそれらの因子で説明され、そのうち14%は森林に関連する因子で説明されました。これによれば、天然林が10%減ると洪水の頻度は4~28%増え、経済的損失や人的被害も増えます。
FAOとCIFORは間違いだったのでしょうか?
前述のFAOとCIFORのレポートでは次のように述べられています。「一般的に信じられていることとは異なり、森林は下流で起きる洪水、『特に大規模な洪水』にはあまり影響がない(『』はPOLEX筆者が記入)」。この政治的な意味は、破壊的洪水の防止という名目は森林に依存する上流の農民の活動を政府が制限する理由にはなりえない、ということです。一方、Bradshawらの分析からはサイクロンや台風などの嵐が原因となった大洪水が除かれています。したがって、これら二つの結論の違いは次のようにまとめられるでしょう「森林と洪水には関係があるが、それは一般に信じられているほど大きくはなく、大洪水ではほとんどない」。
しかし議論はまだ終わりではありません。Bradshawらの論文は人口規模や密度を考慮していないので誤りであると、Bruijnzeelらがすでに反対意見を表明しています。彼らの見解によれば、森林自体よりも森林が失われた『後の』土地利用で何が行われたかに洪水の発生は強く関係しており、また人口が増えると報告される洪水の数が増えるというのです(彼らの見解は世界アグロフォレストリーセンターICRAFのウェブサイトに発表されており、査読付き学術誌にはまだ発表されてはいません)。
政策決定者は「森林減少は洪水を引き起こすのか?」を知りたがっています。これに対して単純に「はい」または「いいえ」と答えるだけではどちらも誤解を招きます。下流の大洪水を上流の農民のせいにしてしまうと、間違った抑圧的な政策により無用の犠牲を強いることになりかねません。一方で、森林の保全に失敗すれば洪水の頻度や強度が増加して人々の生活は大きな代償を強いられる可能性もあります。科学的な議論もまだ続く中、このような微妙なメッセージを私たちは政策決定者に誤解なく届けることができるでしょうか?
(日本語訳 鷹尾 元(CIFOR) g.takao@cgiar.org)