インドネシアのスハルト大統領が、32年の治世を終え退陣したのは1998年のことでした。彼が独裁していた時代、中央政府は森林を厳しく管理し、少数のエリート層が利益を得ていました。
スハルト大統領退陣の翌年、インドネシア国会は民主化の一環として森林管理権を地方政府に委譲しました。そして地方政府が企業に伐採許可を与えるようになりました。企業は伐採許可を得るため、伐採により影響をうける地域社会の了解を取り付けねばなりませんでした。
インドネシア林業省は、この新しい伐採認可システムにより、森林の消失、違法伐採、それ以前に認可された伐採権との間の摩擦などが進むと危惧しました。2000年、林業省は地方政府が伐採を認可するのを止めようとしましたが、地方政府による伐採権の認可は2004年までつづきました。このようなことから、地方分権の長所と短所について数多くの議論がなされてきましたが、そのそれぞれについて具体的な証拠はほとんど示されませんでした。
Stefanie EngelとCharles Palmerによる「良くするためか、悪くするためか?-インドネシア森林セクターの地方分権」は、地方分権が商業伐採を通じて森林地域で暮らす人々に与えた影響に関する調査結果を示しています。2003年から2004年にかけて、東カリマンタン州のマリナウ県と西クタイ県にある65の集落の687世帯を対象に調査を行いました。60の集落では、地方分権化の前にも後でも企業による伐採活動が行われていたため、地方分権化の前後の違いを比較することができました。この調査により次のようなことが明らかになりました。
- 伐採会社から支払いを受けていた世帯は、地方分権前は1%にすぎなかったのが、地方分権後は平均して94%の世帯が支払いを受けていました。学校建設のような、現金以外の利益を受けていた世帯は、地方分権前の11%から18%に増えていました。2003年から4年にかけて、平均的な世帯で木材1立方メートル当たり3.67米ドルの現金とその他の利益を受け取っていました。
- 森林は地域社会のものであると考えていた世帯は、地方分権前の21%から地方分権後には82%に増加しました。
- 平均で6ないし8割の世帯が、伐採は洪水を増やし、水質や狩猟にも良くないと答えました。しかし、伐採による悪影響の程度は、地方分権の前後で変わりは無いと答えました。
- かなりの数の世帯が、伐採は農耕や林産物の採集に悪影響を与えることはほとんどなく、そのことに地方分権の前後で変わりはないと答えました。
- 地域社会と企業の合意の3分の2には、伐採後の再植林、伐採が許される最低直径、特定の樹種のみを伐採するといった、環境に関する項目が含まれていました。
- 支払いを遅らせたり、支払いをしなかったり、再植林しなかったり、約束した利益の提供に失敗することが、企業にはよくありました。しかし、ほとんどの村は、泣き寝入りすることはありませんでした。このような問題に対して、住民たちは、デモをしたり、道路を封鎖したり、機材や木材を差し押さえたりして抗議し、効果を上げました。
この結果は、地方分権が東カリマンタン州の森林生活者にとって有益なもので、彼らにより多くの森林管理権をもたせたことを示しています。また、地方分権により環境が悪化するという批判に疑問を投げ掛けるのです。