トウモロコシがトウモロコシでなく、コーヒーがコーヒーではない時代がありました。すべての作物はお百姓さん達が、野生植物のなかから選び出したものです。多くの作物には近縁の野生種がありますが、急速に減少しつつあります。皮肉なことに、バイオテクノロジーの発達により近縁野生種の遺伝子資源を品種改良に利用できるようになった現在、野生種の急速な減少が進んでいます。
近縁野生種の標本を収集し遺伝子バンクに保存するのが、野生種減少への対策として最良の方法と、専門家はよく言っていました。しかしながら、多くの場合どの種類をその対象にすれば良いかわかりませんでした。また、もともとの生息地の外では、うまく育たないものもありました。そして科学者達は、作物の野生近縁種は原産地で保存されるべきであると、認識するようになりました。
Brien MeilleurとToby Hodgkinsは、作物の野生近縁種の現地保全について、現状と傾向を取りまとめました。彼らは、国連食糧農業機関(FAO)、生物多様性保全条約(CBD)、地球環境ファシリティー(GEF)は、以前に比べて野生近縁種の現地保全を重要視していると述べています(訳注1)。
世界中の国々が、すべての穀物、野菜、果物、ナッツ、そして野菜類の野生近縁種を特定し、どこに生育しているかの地図を作り始めています。旧ソ連が、作物の野生近縁種のリストを作成したのは1981年のことで、それ以来、他の国々も同様のリストを作りつつあります。トルコは、遺伝子管理のため22の保護区を持っています。メキシコはトウモロコシの、インドは柑橘類の、野生種を保護するための、生態系保全地域をもっています。アメリカは、ブドウ、タマネギ、ジャガイモの野生種を保護しようとしています。しかしながら、ほとんどの国は作物の近縁野生種を保護するために適切な施策をとることができていません。近縁野生種の大半が調べられていないのです。今ある保護区は、重要な種類の生育地をカバーしていません。そして、新しく保護区を作ることが難しい人口密度の高い地域にのみ生育する種類もあります。そのような種類は、畑のなかや宗教的聖地もしくは道沿いで保全するしかないでしょう。
さらなる努力が必要なのははっきりしています。野生近縁種は、病虫害や気候変動に伴っておきる問題の解決を助けてくれるはずです。しかしながら、そのことは十分に認識されてはいません。作物の野生近縁種は、パンダやコアラのように見た目が可愛くないかもしれません。しかし、将来の食料供給を助けてくれる可能性を秘めているのです。