今回、紹介させて頂くのは、アグロフォレストリーが生物多様性保全に果たす役割に関する研究です。農業、林業そして生物多様性保全ということから、英文表題にこだわらず「一石三鳥(one stone three birds)」という表題にしました。
地球全体で見ると自然保護地域は全陸地の約1割にすぎません。この割合が将来、急激に増加するとは考えられません。そして保護地域の中には実際に保護されていないものが多々あり、その割合が増加していくことが危惧されています。
野生の動植物の多くは、自然保護地域の外に生息しています。そのような野生の動植物は、人々の生活のために利用されることがあるので、自然保護地域の外でも絶滅が危惧される動植物を保全するための活動が必要です。そのため、アグロフォレストリーによる生物多様性保全の可能性が注目を集めています。このようなことから、Gotz Schrothをはじめとする19名の研究者は、「熱帯景観におけるアグロフォレストリーによる生物多様性保全における一考察(Agroforestry and Biodiversity Conservation ? a Synthesis)」を、取りまとめました。
Schrothらは、アグロフォレストリーにより、絶滅危惧種を含む多くの野生動植物に生息場所を提供できると結論しています。特に天然林がほとんど無くなってしまった地域では、アグロフォレストリーが種の絶滅を防ぐ役割を果たすとしています。また、農家の人たちが植栽する樹木の中にも、絶滅が危惧されている樹種が含まれることがあります。もちろん、アグロフォレストリーで植栽されるのは有用樹種だけですので、アグロフォレストリーによって形成される森林は、天然林と同じものではありえません。
アグロフォレストリーは、動物たちにとって孤立した島として残っている森林をつなぐ通り道にもなります。つまり、アグロフォレストリーは、動物による種子散布や花粉媒介の範囲を広げることで、種多様性や種内の遺伝的多様性の維持に貢献することができるのです。もちろん、アグロフォレストリーには負の側面もあります。害虫、害獣の通り道となって、それらによる被害を増やしたり、植栽された樹種が自然に広がることにより、天然林を構成する樹種が厳しい競争にさらされてしまうこともあります。つまり、生物多様性保全への配慮を高めたアグロフォレストリーは、農家の人達の収入を減らしてしまう可能性があるのです。アグロフォレストリーによる生物多様性保全を実現するには、農家の人々の生活も考慮する必要があるのです。
アグロフォレストリーは、残存する天然林への利用圧をあげることも、さげることもあります。放牧や移動焼き畑に比べると、木材収穫を考慮したアグロフォレストリーは、森林を大きく切り開いていくことはありません。そして、アグロフォレストリーにより木材を確保できる農家の人は、天然林から木材をそれほど利用することは無いのです。しかし、アグロフォレストリーを始めるために、天然林を切り開く人々がいるのも事実です。
アグロフォレストリーの導入により、世界の生物多様性減少が一気に解決することなどありません。しかし、単一作物が栽培される農地にくらべ、樹木が植栽されるアグロフォレストリー農地の方が、生物多様性の保全に望ましいことは間違いありません。