今回のPOLEXでご紹介するのは、メキシコの住民林業の話です。メキシコと言えば、多くの方がタコス、テキーラ、そしてラテンのリズムを連想すると思います。あまり知られていないことですが、メキシコは住民林業においても世界をリードしているのです。メキシコの国有林の半分以上は、地域住民の管理下にあり、300から500の住民団体が自分たちの森林の伐採を合法的に行っています。このようなケースは、世界的にみてもまれなことなのです。
メキシコの地域住民が森林所有権を得たのは1930年代のことでした。しかしながら、その当時の森林所有権とは名ばかりのもので、メキシコ政府は地域住民の承諾無しに木材企業に伐採権を与えていました。そして、伐採による利益の地域住民への還元はわずかなものだったのです。そのような政策が改善されたのは1970年代になってからのことです。現在では、地域住民の承諾無しには何人たりとも森林を伐採することはできないのです。
Conservation Biologyに掲載されたD. Bray他による論文「メキシコ住民による森林管理?持続的森林景観管理モデル(Mexico’s Community ? Managed Forests as a Global Model for Sustainable Landscapes)」は、メキシコ中北部の温帯林、そして南東部の熱帯林における住民林業の成功例を紹介しています。
メキシコではほとんどの住民組織は、その管理するところの森林を商業的に伐採することはありません。それは、森林保全のためというよりも、商業伐採の対象となる樹木が少ない森林であること、つまり住民にとって林業が経済的に魅力の無い産業であることも、大きく影響しています。また、森林管理計画を立てるのが難しかったり、住民にその気がないだけの場合もあります。
商業的な木材生産をしている住民組織でも、その多くは木材企業に伐採権を与えているだけにすぎません。しかし、自分たちで木材生産を始めた住民組織のなかには、国際市場でも競争力を持つ、木材製品を供給しつつあるものもあるのです。そこからの利益により、あらたな雇用の創出はもとより、学校や診療所の設立、簡易水道といった地域の福利厚生を実現している住民組織もあるのです。
メキシコの事例は、住民林業によって、森林の公益環境機能に配慮した持続的森林管理が実現する可能性を示しています。総計で100万ヘクタール近くを管理する25の住民組織は、森林ステワードシップ・カウンシルによる森林認証(訳注)を受けています。また1980年代以降、Quintana Rooの64集落は、100万ヘクタール近くの森林を破壊しないように管理しているのです。多くの集落は、森林管理計画で許容されているよりも少ない数の樹木しか伐採していませんし、森林を伐採せずに保全していく方針をとっているのです。 もちろん、破壊的な伐採が続いている地域もありますし、森林の農地転換が続いている地域もあります。しかし、持続的な森林利用は着実に進んでいるのです。
メキシコの事例は、地域住民による持続的な森林管理が実現するまでには、長い時間と多くの努力が必要なことを示しています。しかし、それ以上に、地域住民による持続的な森林管理が実現可能なことを示しています。タコスとテキーラを楽しむだけでなく、メキシコから学ぶべきことはたくさんあるのです。