ほとんどの読者にとってインド中部のハルダ(Harda)は、初めて聞く地名だと思います。ハルダはでは約50万人の人々が農業で生計をたてています。耕作のための土地をもたない人々は、野生のベンガルガキ(Tendu)の葉を拾い売りして暮らしています。ハルダの村々には学校はありますが、病院や電気はまだまだ完備されていません。人々の移動の手段は、牛車、自転車そして徒歩です。Poffenberger他が最近発表した報告「地球温暖化と村落共同体:インド中部における住民参加森林修復とクリーン開発メカニズム(Communities and Climate Change: The Clean Development Mechanism and Village-Based Forest Restoration in Central India)」によれば、地球温暖化対策としての炭素取引をうまく使って、ハルダの人々の生活を改善しながら森林を修復することができそうです。
ハルダの村々のいくつかでは、州主導の協同森林管理プロジェクトが実施されていて、森林火災予防、放牧の制限、違法伐採の監視等の活動を通じた共有林の修復を村人達が実施しています。ただし、プロジェクト予算が限られているため、参加を希望しているのにプロジェクトが実施されていない村もあります。また、プロジェクトが終了し予算がなくなった後、どのようにして活動を維持するのかという問題があります。しかし炭素取引の仕組みをうまく使えば、より多くの村で同様の活動を実施するための資金が半永久的に確保できるかもしれません。
ハルダの森林は、毎年1ヘクタールあたり3.4トンの炭素を蓄積することができます。ハルダには、そのために利用できる土地が11,000ヘクタールあります。そのため、炭素蓄積量1トンが10ドルと評価されるなら、毎年375,000ドルの収入が見込まれます。そのうちの3割程度は、活動を実施するための諸経費として支出されてしまいますが、残りの7割は地域住民に直接的な利益をもたらす事業に活用することができるはずです。
「地球温暖化と村落共同体」では、住民による森林修復活動が炭素取引により利益をえるために必要な手順が具体的に述べられています。インドでは1億人を超える人々が森林の内外で生活しており、6700万ヘクタールの荒廃した森林があります。ハルダの例をもとにして炭素取引を活用することで、より多くの地域で人々の生活の改善と荒廃した森林の修復の両立をはかることが可能になるかもしれません。しかしながら、地球温暖化対策に関する国際交渉の席では、炭素取引そのものは議論されても、炭素取引を活用した地域住民の生活改善や荒廃林の修復については議論の対象にされて来なかったのです。