金鉱や油田は環境保護地域内でばかり発見されているような気になることがあります。世界中をみわたすと、驚くほど多くの企業が環境保護地域内での石油、天然ガス、鉱物資源等の採掘に興味を持っていることがわかります。環境保護地域だけでなく、保全すべき価値が高いと考えられる天然林や、森林を生計の場として長く暮らしてきた人々がいるようなところも、資源探査の対象になっていることは珍しいことではありません。このようなことは、環境保全か地下資源採掘かという問いの難しさを示しています。そして、環境保全と資源採掘の完全に両立させる解決策はありえないのです。地下資源の採掘は多くの収益をもたらします。しかし、その一方で、動植物の生息地とかその地域の森林に依存して生活してきた人々の生計に、大きなダメージをあたえることがあります。地下資源採掘が副次的に引き起こす環境的もしくは社会的な悪影響を減らすことは可能でしょう。しかし、まったく無くすことはできないのです。そのため、地下資源採掘の許認可について、政府行政機関は難しい政治決定を迫られているといえます。それなのに、ほとんどの政府行政機関は、このような決定をするための基準をもってはいません。
上のようなことから、WWFは、Nigel DudleyとSue Stolton著 “To Dig or Not to Dig, Criteria for Determining the Sustainability or Acceptability of Mineral Exploration, Extraction, and Transport form Ecological and Social Perspective” (掘るべきか掘らざるべきか? 生態的社会的側面から見た地下資源採掘の持続性および受容性を決定するための示標)を発刊しました。著者らは、政府や企業が、地下資源採掘を計画するにあたって、1)禁止すべき、2)厳しく制限すべき、3)従来の方法で構わない、という決定を下すためのガイドラインを提供しています。著者らが提示したガイドラインは、2年前にヨルダンのアンマンで開かれたIUCN(世界自然保護連合)の国際会議で承認された提言に続くものです。
著者達は政府や企業がある場所の取り扱いを決定するにあたっての具体的な
示標を提示し、次のことを述べています。1)環境保護地域内、保全する価値が高い地域、生物多様性の著しい減少が予想される地域、そこで暮らす人々が社会・経済的な悪影響をこうむる可能性が高いところ等では、地下資源の採掘は行なうべきではない。2)保護や保全の重要性がある程度ある地域では、生態的および社会的な影響が十分に検討されている場合に限り採掘を許可する。3)その他の地域においてのみ、企業は従来の方法で採掘をおこなうことができる。
著者達の提言が正しいかどうか決めることは現実的ではありません。費用対効果の分析をはじめとする経済的手法は、開発か保全かという判断を下すには無力なのです。なぜなら、その判断は個人や集団が何を重要と考えるかということを反映しているからです。しかしWWFによるこの書物は、政府や企業がそれを望むならば、明快で筋がとおり現実的なガイドラインを提供しています。