1111年、トレティノの主教はイタリアアルプスのFiemme渓谷に住む人々の住民自治を認めました。毎年2000名の住民が主教のために兵役につくことの代償として、住民自治が認められたのです。そのとき以来、地域の民主的組織「Magnifica communita」がそれぞれの住民が私有する土地の集合体としてFiemme渓谷の森林および牧草地を管理してきました。主教にたいする兵役の提供は遠い昔になくなりましたが、Magnifica communitaは現在も、渓谷の森林を管理しています。製材工場や森林企業を経営し、その森林管理はForest Stewardship Counsilの標準として認証されています。
もちろん、ヨーロッパの森林がすべてFiemme渓谷のように管理されてきたわけではありません。住民達によって管理されている森林はごく僅かに残るだけです。しかしながら、小規所有者や住民管理による森林は最近でもヨーロッパ林業において主要な役割を果たしています。そのことを、世界自然保護連合(IUCN)のSally Jeanrenaudが「西ヨーロッパの住民共同体と森林管理(Communities and Forest Management in Western Europe)」として取りまとめました。
ヨーロッパでは1200万世帯が森林を所有・管理していて、一世帯あたりの平均森林所有面積は11haです。このような家庭林はヨーロッパの全私有林の3分の2にあたります。フィンランドでは、林産物の70%が家庭林から生産されたもので、スウェーデン南部の森林の80%が家庭林です。この2、30年間を通じて、家庭林のありかたが急速に変化しました。森林所有者の多くが都会へでたり、収入の大半を農林業のほかから得るようになりました。一方でレクレーションの場としての森林利用が重要性を増しています。ヨーロッパでは個人の所有する森林面積が比較的均等であるため、森林に対する決定に関してより広範な人々が参加することが可能になっています。
ヨーロッパの小規模森林所有者の多くは、情報、研修、市場活動というサービスを提供するとともに、政策決定の場で彼らの主張を代弁する、森林組合に所属しています。森林組合には、自分達の製材工場をもつものもあります。たとえば、スウェーデンのある組合では、3万3千人の組合員が所有する170万ヘクタールの森林から、毎年1000万立米の材木を生産しています。この組合は、6つの製材所とその他の加工工場をもつ木材会社を経営しています。
ベルギー、フランス、ポルトガル、スペイン、スイスでは、地方政府がまとまった面積の土地を管理しています。たとえばフランスでは、11,000の地方自治体が260万ヘクタールの森林を所有し、1995年にはそれらの地方自治体が管理する森林からの収入が全公有林の収入の約半分を占めていました。フランス森林自治連合(The Federation of French Forest Communes)」は、地方の利益に配慮するよう国策決定者に対して圧力をかけています。ヨーロッパのほかの国でも、森林について配慮しているさまざまな地方自治体の意見を可能とするよう、政府は政策決定をより参加的なものに改善しつつあります。
一般市民によって林業施策が決められるのは民俗伝承の世界の話ではありません。住民による森林管理と林業は、Fiemme渓谷で、スウェーデンで、そしてヨーロッパのあちこちで、現在もおこなわれています。そこでみられる事例は、過去の遺物ではなく、未来へのモデルなのです。